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ね、やっぱり時間足りなかった…。



 *****

僕がきみに再会をしたとき、どんな風に思ったかなんてきみは知らないだろう。
僕がどんなに傷ついたのか、きみは知らないだろう。
ただきみが生きていた。生きて、僕の目の前に現れた。その事実が僕をどんなに苦しめたのか、きみは。

 

アロウズの兵舎の中に、きみの部屋があるのだと教えてもらって僕はすぐにきみに会いに行った。もちろん、一人でいる時を狙って。わざわざそうしなくても、きみが大抵の場合単独で行動をしていることは知っていたし、なんだか不可解な免除を持っていることも知っていたけれど、ただきみに近付くのはなるべくなら夜の時間帯がいいと勝手に決めていたのだ。明るいうちにきみのあの顔と対面するのは余り好ましくない。
ロックされている部屋のドアをこつんとノックする。部屋の中にいるはずなのに、返事はない。
もう一度叩く。
けれど、待っても返事がない。深呼吸をしてきみのあの笑える名前を口に出そうとした瞬間に、誰だ?と声がした。ドア越しに聞こえる声はまるで変わっていない。
「……僕だよ」
名前なんて名乗らなくても分かってくれる。僕の甘えをきみは昔のまま受け止めて、ドアを開いてくれた。スライド式のドアが開くと、きみが仮面の向こうから厳しい視線を僕に向けている。僕は、微笑んだつもりだったけれど、上手く笑顔が表現できているかはわからない。ただ、顔の筋肉がひきつっているのは自覚できる。
きみは顔色を変えずに、ドアの前に突っ立っていた。否定も肯定もないのは、僕の存在を持て余しているからだろう。
きみに罪悪感が芽生えればいい。僕はそう願いながらきみの目の前に立っている。
何も言わずに、部屋の中に入った。兵舎の部屋は小さなつくりで、壁際の簡易ベッドと、何に使うのか用途不明の机が置いてある。僕は迷わずベッドの方に腰かけて、下からの視線できみの顔を見た。
きみは言葉を選んでいる素振りを見せる。僕に対してどんな言葉が適切なのか、考えている様子だ。
どこで覚えてきたのかわからない気障な言葉使いをして、思ったことはなんでも言うきみが、僕の前では委縮している。きみの負い目の正体が、僕を傷つけている根幹だと、きみ自身気付いているからだ。
「…ミスター・ブシドー、お願いを聞いてもらってもいいかな」
手をのばして、彼の上着をつかんだ。払いのけるわけでもなく、ただきみはぼくの手の先を見つめている。まるで、視線を合わせたくないためにそうしているように。
「……あなたは、僕の知っている人に似ている。僕を置いて一人で行ってしまった人に似ている」
強く力を込めていたのに、指先が震えた。口元が歪む。その名前を心の中で唱える度に、涙が溢れそうになる。きみがいなくなってしまってから、ずっとそうだったように。今も、涙が溢れそうになる。
「グラハム、と呼んでもいいかな」
言ってしまってから、口の中の唾液を飲み込んだそうでもしないと、涙が眼のふちからこぼれそうだったから。
「……ふたりの時だけでいいから」
言いながら、顔を伏せた。堪えているのに、涙が出てくる。きみの名前を口に出しただけなのに、どうしてこんな風に僕は弱くなってしまったんだろうか。
きみは、何も返事をしてくれなかった。
こんな風になってしまった僕を見て、戸惑っているのが良くわかる。僕だって、自分がこんなにも弱い人間だなんて知らなかったんだ。

 


(きみは…生きていたのに僕の所に帰ってきてはくれなかった……)

 

四年前のあの日から、僕の中には何かぽっかりと穴があいてしまった。それが、きみを失った事による僕の心の傷なのだと、気付いたのはきみに再会をしたからだ。もう一度会わなければ、僕は自分自身の気持ちに気付くことはなかった。
こんな風に、知りたくはなかったけれど。
胸の奥が、痛い。
視界をぼやけさせていた透明の液体は、眼のふちからこぼれるぎりぎりのところで乾いて消えた。僕はきみの前で泣きだすなんてみっともないところを見せなくて済んで、ほっとする。
それでもまだ胸の奥のきりきりする痛みは去ってくれなかった。
きみの上着を掴んでいる指先が白くなっている。ああ、手袋をつけたままにしておけばよかった。この指先から、僕の必死なきもちがばれてしまわないように。





>>>
途中です。
また続きを書いたらここにアップしておきます。

一期のビリーは甘えたちゃんでかわいいなーって思います。年齢はおっさんだが心はおとめだ。

余談ですが現在パソコンの壁紙がミスターブシドー(パイロットスーツ&メット着用)です。
以前の流れが伊達正宗(戦国無双)→大谷吉継(采配のゆくえ)→ブシドーなので、たぶんまゆのカテゴリーの中ではブシドーも戦国武将なのだと思います。…ってそんなわけない。

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