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怒りが自我を構成しているときはただ前しか見えないけれど、彼の中の怒りがいつかおさまった時に彼が見る白い世界には何があるんだろうか、と不安になる。
*****
「ねえ、服を脱いで見せてよ」
ふたりきになった時に不意打ちのように言ってやった。きみは驚いた顔をして僕を見る。仮面を付けていても尚表情は豊かだ。見開いた目が驚きを現している。
そんな顔をして僕を見るのは多分初めてだよね。以前の僕らの関係は、いつだって驚かされるのは僕の方だった。
「ねえ、脱いでよ」
続けた言葉にきみはゆっくり立ち上がる。いつも着ている陣羽織りを脱ぎ捨ててそのへんにあった椅子にかけた。
「…なぜだ、と聞いてもいいのか」
正体がばれていることなんか承知で聞いてくる。僕は今まで触っていたパソコンのディスプレイをそのままにきみに向き直った。
「傷があるんだろう?見せてほしい」
真っすぐに視線を向けるときみは黙り込んだ。顔の傷をそのままにしているんだ。体の傷が消えていないわけがない。
「重力負荷を考慮する上で必要な事だ」
「データは、届いているはずだが」
僕が言い訳がましいせりふを口にすると、すぐに反撃してくる。弁が立つのは相変わらずだ。だけどきみはそれが言い訳だって分かっている。だから、そのあと黙って陣羽織りの下の深緑の軍服を脱いだ。上着、シャツ、順番に脱ぎ捨てていく。椅子の背中に脱いだものをかけていく几帳面な作業は途中から諦めたようだ。
足元に広がる衣服は彼女の事を思い出させる。途中から、足元を見るのをやめた。下着を最後まで脱いだきみは僕を真正面から見据えて、表情すら動かさない。
逆にこちらが恥ずかしくなるくらいの、堂々とした態度。けれどそんなきみの身体には幾つもの傷が残っていた。深いものから浅いものまで。四年前に付けられた傷は、もはやどれだかわからない。彼はそのずっと前から戦いをしていた人だから。
「カタギリ、」
よそ行きの声が僕の名前を呼んだ。まるで聞いたことのない名前のように聞こえる。仮面を付けたきみが、僕の知っている彼とは別人なんだと何度も何度も心の中で繰り返した。繰り返したはずなのに、僕は彼に手を延ばしてしまった。腕を掴んで引き倒し、身体を組み敷く。裸の彼の身体が冷たい床の上を転がっているのは、そしてそれを上から見ているのは、不思議な気持ちだった。頭の芯が痺れ
る。きみの、懐かしい匂いがした。
「グラハム…」
呼んではいけない彼の名前をつぶやき、床に張り付いた背中をゆっくりと抱き起こし、両腕で包んだ。思い出の中のきみも、今ここにいるきみも、同じもののはずなのに、なぜか遠い。顔を近づけたけれど、仮面が邪魔で唇を合わせることは出来なかった。僕の戸惑いに気付いた彼は、ちいさく口を歪めて笑う。
「唇を合わせなくても、身体を重ねることはできる」
彼の言葉が何を示しているのかはすぐに分かった。分かったので、僕は彼の身体を放して元に居た場所に戻った。
「違うんだ…」
いま、僕が欲しいものはきみの身体じゃない。嘘でも構わないから、言葉が欲しかったんだ。それがどんな言葉でもいい。きみが、僕を忘れずにいてくれたこと、僕を好きでいてくれたこと、そんな言葉が欲しかったんだ。
>>>
自分を肯定するものがビリーにはちゃんとあるんだろうか。不安。
足もとが揺らいだらすぐに死んじゃう世界に居ることを自覚しているんだろうかあの人。
ふたりきになった時に不意打ちのように言ってやった。きみは驚いた顔をして僕を見る。仮面を付けていても尚表情は豊かだ。見開いた目が驚きを現している。
そんな顔をして僕を見るのは多分初めてだよね。以前の僕らの関係は、いつだって驚かされるのは僕の方だった。
「ねえ、脱いでよ」
続けた言葉にきみはゆっくり立ち上がる。いつも着ている陣羽織りを脱ぎ捨ててそのへんにあった椅子にかけた。
「…なぜだ、と聞いてもいいのか」
正体がばれていることなんか承知で聞いてくる。僕は今まで触っていたパソコンのディスプレイをそのままにきみに向き直った。
「傷があるんだろう?見せてほしい」
真っすぐに視線を向けるときみは黙り込んだ。顔の傷をそのままにしているんだ。体の傷が消えていないわけがない。
「重力負荷を考慮する上で必要な事だ」
「データは、届いているはずだが」
僕が言い訳がましいせりふを口にすると、すぐに反撃してくる。弁が立つのは相変わらずだ。だけどきみはそれが言い訳だって分かっている。だから、そのあと黙って陣羽織りの下の深緑の軍服を脱いだ。上着、シャツ、順番に脱ぎ捨てていく。椅子の背中に脱いだものをかけていく几帳面な作業は途中から諦めたようだ。
足元に広がる衣服は彼女の事を思い出させる。途中から、足元を見るのをやめた。下着を最後まで脱いだきみは僕を真正面から見据えて、表情すら動かさない。
逆にこちらが恥ずかしくなるくらいの、堂々とした態度。けれどそんなきみの身体には幾つもの傷が残っていた。深いものから浅いものまで。四年前に付けられた傷は、もはやどれだかわからない。彼はそのずっと前から戦いをしていた人だから。
「カタギリ、」
よそ行きの声が僕の名前を呼んだ。まるで聞いたことのない名前のように聞こえる。仮面を付けたきみが、僕の知っている彼とは別人なんだと何度も何度も心の中で繰り返した。繰り返したはずなのに、僕は彼に手を延ばしてしまった。腕を掴んで引き倒し、身体を組み敷く。裸の彼の身体が冷たい床の上を転がっているのは、そしてそれを上から見ているのは、不思議な気持ちだった。頭の芯が痺れ
る。きみの、懐かしい匂いがした。
「グラハム…」
呼んではいけない彼の名前をつぶやき、床に張り付いた背中をゆっくりと抱き起こし、両腕で包んだ。思い出の中のきみも、今ここにいるきみも、同じもののはずなのに、なぜか遠い。顔を近づけたけれど、仮面が邪魔で唇を合わせることは出来なかった。僕の戸惑いに気付いた彼は、ちいさく口を歪めて笑う。
「唇を合わせなくても、身体を重ねることはできる」
彼の言葉が何を示しているのかはすぐに分かった。分かったので、僕は彼の身体を放して元に居た場所に戻った。
「違うんだ…」
いま、僕が欲しいものはきみの身体じゃない。嘘でも構わないから、言葉が欲しかったんだ。それがどんな言葉でもいい。きみが、僕を忘れずにいてくれたこと、僕を好きでいてくれたこと、そんな言葉が欲しかったんだ。
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自分を肯定するものがビリーにはちゃんとあるんだろうか。不安。
足もとが揺らいだらすぐに死んじゃう世界に居ることを自覚しているんだろうかあの人。
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