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なんでもない話です。



 *****
部屋の電気を消して、テレビのモニタに電源を入れる。
「映画にする?ニュース?」
尋ねると、映画、とそっけない返事があった。
「せっかくの休みに、ニュース番組なんて見たくない」
子供っぽいなげやりな口調に小さく笑って、映画のタイトルを画面に出した。男二人で恋愛映画なんて見る気にはなれないけれど、ドキュメンタリーなんてもってのほかだ。なんとか探しあてたのは一昔前に流行ったスパイ映画。
「見たことがあるのか?」
「ないよ」
映画なんて見るわけないじゃない。笑いながら、テレビの正面にあるソファに座った。グラハムがローテーブルの上に買ってきたチキンやポテトを並べて、冷蔵庫から出してきたビールの缶を手渡してくれた。
缶を開けて乾杯をすると、グラスに注がずそのまま口にした。喉がゆっくり動くのを見ながら、そんな姿の彼を見て笑ってしまった。
「どうしたんだ」
「…別に」
軍にいる奴に見せてやりたい。いつもきっちり軍服を着こんでいるきみを見て、フォークとナイフでフレンチを食べている方が似合うと思っている連中に。普段のきみはこんなにもだらしなく、怠惰であると言ってやりたい。
テレビの中で映画が始まる。
暗い部屋の中で、光がちらちらとテーブルの上を照らす。
テーブルの上にはナイフもフォークもない。きみは手をのばしてポテトをつまんで口の中に入れる。時々、塩のついた指先を舌でぺろりと舐める。だらしない態度。
「…カタギリ、」
横目できみを盗み見ていたら、突然名前を呼ばれた。びくりとして顔をあげると、グラハムが冷たい視線をこちらに向けている。
「映画、見てないじゃないか」
テレビ画面を指差して、いたずらっぽく笑う。白い歯がちらりと見えたので、面白がっているのがすぐに分かった。
「……見てるよ」
食事をしているきみの横顔を見ていたなんて言いたくなくて、視線をテレビに戻した。けれど、映画の内容なんてまるで頭の中に入ってこない。意識は、隣に座っているグラハムの方に注がれている。
二人掛けのソファに、男ふたり。
少し身体をずらせば、少し腕を伸ばせば、触れ合う距離に座っている。
さっき見た、ポテトをつまんでいた指先を思い出した。
(あの指に…触りたいなあ)
なんでもない顔をしながら映画を見て、頭の中では全然違う事を考えていた。たとえば、この距離を打破する方法。
(…グラハムは、きれいだからね…)
男も、女も、みんなが彼を綺麗だと思うのだから、自分だって彼を好きになって不自然ではないのだ。そう、自分に言い聞かせて、少しだけ姿勢をずらした。
映画は、まだプロローグが終わったところ。





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グラハムはマナーのちゃんとしているレストランよりも、友達のおうちでだらだら飲んでる方が似合いそうだなあ、って思いました。アメリカンだから?
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