あまい。 2008/12/04_Thu_22:49

ビリーはグラハムの前に出るとどうしてあんなに眉毛が下がるんだろう…。あの子はグラハムにべったべたに甘えているなあ！と思う。

グラハム、グラハム、彼女にふられたんだよ。彼女、僕との別れ際に振り返りもしなかった。僕も、何も言えなかった。どうしたら良かったんだろう。どうすれば、良かったんだろう。ねえ、グラハム、聞いてる？僕、振られたんだよ。一人きりになってしまった。グラハム、会いたい。会いたい。一人になりたくない。お願い。お願い。そばに居て。
酔っぱらった声が携帯の端末から聞こえてくる。音声通信だけをオンしているのは、きみの最後の理性だったらしい。
グラハム、グラハム、会いたいよ。一人にしないで。
何度も何度も同じ言葉を繰り返すのは、酔っぱらっている証拠だ。きみは自分で気付いていないかもしれないけれど、アルコールが回ってしまった時に何度も同じ話をするんだ。はじめから、終わりまで。
けれど…。
グラハム、ねえ、聞いてる？
何度も、何度も、そんな風に言われると、まるで酔っぱらいの戯言ではなく、きみが心から、本心からそう言っているのだと勘違いをしてしまう。
ねえ、僕は彼女の事が好きじゃなかったのかな。どうして、あの時何も言えなかったんだろう。もちろんショックは受けていたけど、だけど何かできたはずなんだ。彼女の手を取ることが、どうしてできなかったんだろう。
お願い攻撃が終わったと思ったら、次は自問をはじめた。聞いているのか、と確認するくせに、こちらの返事を聞かないで話を続ける。面白い男だ。
彼女も…僕の事好きじゃなかったのかなあ…。どうして、いままで一緒に居てくれたんだろう。ねえ、僕はずっとさみしかったんだ。彼女も、そうだったのかなあ。いま、一人になってまたさみしくなったよ。会いたい。会いたいよ。
一方的に話を続けるきみの声は、まるで壊れたレコーダーみたいだ。ただ、会いたい、と言葉を重ねるたびにきみの声が重くのしかかってくる。泣いているのか、それとも喉が枯れてきたのか、繰り返すたびにその声が悲壮さを増してくる。
たかだか女性一人にふられただけで、ここまで落ち込めるなんてある意味尊敬する。
電話の向こうで、何かが落ちる音がした。あ、と驚いたような声の後に、何の言葉も続かない。テーブルの上の酒瓶でも落としてしまったのだろう。電話の向こうの物音を、じっと耳を澄ませて聞いてみる。鼻をすすっているような音も時々聞こえたので、多分きみは泣いているのだろう。
泣いているのだ。
そう思うと、携帯端末を持つ手からぞわりと血液が逆流したような心地になった。心臓のあたりまでそれは戻ってきて、内臓をぎゅっと締め付ける。きみの痛みが、きみの気持ちが、自分の感情を左右する。そんな事が起こりえると、考えたこともなかった。
きみが会いたいと言うのなら、今すぐそちらに向かおう。きみがさみしいと言うのなら、ずっと一緒に居てやろう。
到底できないことなのに、きみの声を聞くと、きみに懇願されると、なんでもやれるような、してやりたいような、気持ちになる。
気持ちだけでは、どこにも飛べないとわかっていても、だ。
暫く待っていたけれど、携帯端末の向こうにきみの声が戻ってくることはなかった。話をしているのを忘れて眠ってしまったか、それとも別の用事を思い出してどこかに行ってしまったか、どちらかだろう。どちらにしても、酔っぱらったきみは私の事なんて完全に忘れてしまっている、と言うことだ。
困ったことに、その事に憤りも感じない。ただ、きみのことが心配だ。それで、携帯端末をそのままにして通信をきる事ができなかった。きみが戻ってくるのを待っていたわけじゃない。ただ、きみとの繋がりを切れなかっただけだ。





＞＞＞
ビリーはグラハムに甘えているけど、グラハムもビリーを甘やかしているのだと思うよ…（笑）だめな大人たちだ！