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グラハムがビリーにかわいい、って言って、そんなグラハムをビリーが変なやつだなあ、って思えばいいと思った。
*****
コーヒーメーカーにコーヒーをセットして、一緒に部屋に入ってきたグラハムに椅子に座るように促した。さっき手に入れたドーナツの箱から、いくつかドーナツを取り出してさらに盛る。適当に山にされた皿の上のドーナツを見て、きみは苦笑するように顔を歪めた。口元に手を当てて僕を見る。
「私にも、くれるのかな」
皿は、グラハムの目の前においてある。
「勿論、」
きみの尽力のおかげで手に入れたドーナツだ。しかも、一箱分も。僕の休憩時間だけではきっと食べきれないだろうから、むしろきみにも食べてもらわないと困る。僕は皿をグラハムの方に押しやって、どうぞ、と意思表示をした。
きみは、困った顔をしたままで皿を眺めている。
そうこうしているうちに、部屋の中にコーヒーのいい匂いが立ち込める。ふたり分のマグカップを用意して、コーヒーメーカーの隣に置いた。
「今日は、何の会議だったの」
ドーナツがおやつとして差し出された会議の内容を話題に出すと、グラハムは「どうせ、興味もないくせに」とまた苦い顔をした。
「……まあ、僕には関係のない事だけどね」
苦々しく歪んだきみの顔を見て、僕もそれ以上自分が興味を持たない話題を口にするのをやめた。
軍部の議会や、委員に関して基本的に開発部はノータッチだ。開発予算だって申請した分だけ受理される。必要経費だとされているのが半分と、上層部からの圧力が半分。
おかげさまで何不自由ない生活をしている僕に対して、多少の不快感を持っている連中も居なくはない。
グラハムの苦い顔は、そこからきている。
コーヒーができたので、マグカップに注いで、グラハムの前に置いた。
彼はそれを手に取ると、まず香りを確かめてから少しだけ口にする。そんなに良いものを用意しているわけではないのに、そんな風に丁寧にされると少し戸惑ってしまう。
僕は僕で、いつも使っているマグカップに注いだコーヒーを、冷めるまで放置する。ウエットティッシュで手を拭いてから、コーヒーには手をつけずに皿の上のドーナツをひとつ持ち上げた。
「きみも、食べればいいのに」
グラハムの視線が、僕の持ったドーナツにクギヅケになっているので、呆れて言った。そんな風に人のものを欲しがるのなら、自分だって食べればいい。これは別に、僕だけのものじゃないんだから。
そう言うと、グラハムはうん、と頷いた。頷いたけれど、自分からドーナツに手を伸ばそうとはしない。
(……別に、いいけど…)
きみが食べないのであれば、別の誰かに食べてもらうし、何より自分の取り分が多くなるのは願ってもない事だ。僕は心の中で呟いて、手に持ったドーナツにかじりついた。
グラハムの視線は、相変わらず僕のドーナツを見ている。
「……グラハム…」
「何だ」
「あんまり見られると、食べにくいんだけど」
じっと見てくる真っ直ぐな視線に、呆れたような僕の眼は果たして映っているのか。彼はそう言っても、やっぱり視線を外してくれない。
「……照れるんだけど」
自意識過剰と言われるかもしれない。だけど、きみの視線はちょっと大げさすぎるくらいに言わなければ耐えることができない。
僕はグラハムに背中を向けるように座りなおして、ドーナツを食べ続ける。時々、振り返るとやっぱりグラハムは僕と、僕の手元をじっと見ている。
言い訳があるなら聞くけど。本当は、そう言ってやりたかった。だけど、声が出ない。
ドーナツを食べているからだ。きっとそうだ。
「食べている時のきみは、かわいいな」
ふいに、グラハムの口からそんな言葉が飛び出した。
「はあ?」
思わず、口からドーナツを離す。声に出てきたのはそんな間抜けな言葉だった。
「何言ってんの」
僕は君よりも年上で、もう若い子にはおっさんなんて言われるトシだよ。それが何だよ。かわいい、って。
照れるよりも、呆れの方が強く出て僕は眉をしかめる。だけど、グラハムの視線は真剣だ。
「可愛い、と言ったんだ」
僕がどんなに呆れた顔をしてみせても、グラハムは自信満々に返事をしてくる。なんだったら、胸を張って言うような態度だ。彼のあたまはどうかしている。以前からおかしなやつだと思っていたけれど、やっぱりネジが一本外れている。
「きみは…どこかおかしいんじゃないのか?」
今度は真剣に心配するように顔を覗き込んだけれど、グラハムの顔色はちらりとも変わらない。
変わらないどころか、ふふ、と笑って僕に手を伸ばして口元についたドーナツのくずを指先でとってくれた。
(あ、)
それをそのまま、ぱくっと食べてしまう。
「……きみってやつは、」
余りの恥ずかしさに、顔が赤くなった。それは、自分でもわかっている。食べていたドーナツを喉に詰めそうになって、あわててコーヒーを口に含む。まだ充分に冷めていなかったコーヒーが、口の中で熱い。
「何をしてくれるんだ」
「屑が、ついていたから」
慌てている僕を見て、グラハムはやっぱりにやにや笑っている。
僕は、きみの考えていることを理解できそうにない。これから先も、ずっと。
>>>
今日は舞台を見に行ってきたのですが、夫婦が仲良くしているシーンでどうしても「これってグラビリ…」って思ってしまいました(笑)だめなやつです。
「私にも、くれるのかな」
皿は、グラハムの目の前においてある。
「勿論、」
きみの尽力のおかげで手に入れたドーナツだ。しかも、一箱分も。僕の休憩時間だけではきっと食べきれないだろうから、むしろきみにも食べてもらわないと困る。僕は皿をグラハムの方に押しやって、どうぞ、と意思表示をした。
きみは、困った顔をしたままで皿を眺めている。
そうこうしているうちに、部屋の中にコーヒーのいい匂いが立ち込める。ふたり分のマグカップを用意して、コーヒーメーカーの隣に置いた。
「今日は、何の会議だったの」
ドーナツがおやつとして差し出された会議の内容を話題に出すと、グラハムは「どうせ、興味もないくせに」とまた苦い顔をした。
「……まあ、僕には関係のない事だけどね」
苦々しく歪んだきみの顔を見て、僕もそれ以上自分が興味を持たない話題を口にするのをやめた。
軍部の議会や、委員に関して基本的に開発部はノータッチだ。開発予算だって申請した分だけ受理される。必要経費だとされているのが半分と、上層部からの圧力が半分。
おかげさまで何不自由ない生活をしている僕に対して、多少の不快感を持っている連中も居なくはない。
グラハムの苦い顔は、そこからきている。
コーヒーができたので、マグカップに注いで、グラハムの前に置いた。
彼はそれを手に取ると、まず香りを確かめてから少しだけ口にする。そんなに良いものを用意しているわけではないのに、そんな風に丁寧にされると少し戸惑ってしまう。
僕は僕で、いつも使っているマグカップに注いだコーヒーを、冷めるまで放置する。ウエットティッシュで手を拭いてから、コーヒーには手をつけずに皿の上のドーナツをひとつ持ち上げた。
「きみも、食べればいいのに」
グラハムの視線が、僕の持ったドーナツにクギヅケになっているので、呆れて言った。そんな風に人のものを欲しがるのなら、自分だって食べればいい。これは別に、僕だけのものじゃないんだから。
そう言うと、グラハムはうん、と頷いた。頷いたけれど、自分からドーナツに手を伸ばそうとはしない。
(……別に、いいけど…)
きみが食べないのであれば、別の誰かに食べてもらうし、何より自分の取り分が多くなるのは願ってもない事だ。僕は心の中で呟いて、手に持ったドーナツにかじりついた。
グラハムの視線は、相変わらず僕のドーナツを見ている。
「……グラハム…」
「何だ」
「あんまり見られると、食べにくいんだけど」
じっと見てくる真っ直ぐな視線に、呆れたような僕の眼は果たして映っているのか。彼はそう言っても、やっぱり視線を外してくれない。
「……照れるんだけど」
自意識過剰と言われるかもしれない。だけど、きみの視線はちょっと大げさすぎるくらいに言わなければ耐えることができない。
僕はグラハムに背中を向けるように座りなおして、ドーナツを食べ続ける。時々、振り返るとやっぱりグラハムは僕と、僕の手元をじっと見ている。
言い訳があるなら聞くけど。本当は、そう言ってやりたかった。だけど、声が出ない。
ドーナツを食べているからだ。きっとそうだ。
「食べている時のきみは、かわいいな」
ふいに、グラハムの口からそんな言葉が飛び出した。
「はあ?」
思わず、口からドーナツを離す。声に出てきたのはそんな間抜けな言葉だった。
「何言ってんの」
僕は君よりも年上で、もう若い子にはおっさんなんて言われるトシだよ。それが何だよ。かわいい、って。
照れるよりも、呆れの方が強く出て僕は眉をしかめる。だけど、グラハムの視線は真剣だ。
「可愛い、と言ったんだ」
僕がどんなに呆れた顔をしてみせても、グラハムは自信満々に返事をしてくる。なんだったら、胸を張って言うような態度だ。彼のあたまはどうかしている。以前からおかしなやつだと思っていたけれど、やっぱりネジが一本外れている。
「きみは…どこかおかしいんじゃないのか?」
今度は真剣に心配するように顔を覗き込んだけれど、グラハムの顔色はちらりとも変わらない。
変わらないどころか、ふふ、と笑って僕に手を伸ばして口元についたドーナツのくずを指先でとってくれた。
(あ、)
それをそのまま、ぱくっと食べてしまう。
「……きみってやつは、」
余りの恥ずかしさに、顔が赤くなった。それは、自分でもわかっている。食べていたドーナツを喉に詰めそうになって、あわててコーヒーを口に含む。まだ充分に冷めていなかったコーヒーが、口の中で熱い。
「何をしてくれるんだ」
「屑が、ついていたから」
慌てている僕を見て、グラハムはやっぱりにやにや笑っている。
僕は、きみの考えていることを理解できそうにない。これから先も、ずっと。
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今日は舞台を見に行ってきたのですが、夫婦が仲良くしているシーンでどうしても「これってグラビリ…」って思ってしまいました(笑)だめなやつです。
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