四年前。 2009/03/17_Tue_00:02

一期終わり直後くらいの妄想。
こんなの前にも書いた気がするけど（笑）

ベッドに横たわるきみを見て、僕はなんてことをしてしまったのだと、ただただ罪悪感しか抱かなかった。
例えばその時、きみの身体を心配するだとか、この先の事とか、そんな事を考えることのできる性格の持ち主であれば、僕はもっと違った風に救われたのかもしれない。だけど、僕はただ過去を振り返ることしかできなかった。
僕の作ったモビルスーツに乗って、傷付いて帰ってきたきみを見て、なんて事をしてしまったのだと。
自分を責めることばかりを考えていた。
そうすれば、僕の心が救われると、その時は本気で考えていたんだ。
（……僕は馬鹿だ……）
傷ついたきみは、医者にもうパイロットとして生きることはできないだろうと言われた。絶望の淵に立たされる言葉の中で、ただひとつだけ良かったことは、きみが昏睡状態でその話を直接自分の耳で聞かなかった、と言うことだけだ。
僕は毎日きみを見舞いながら、何を考えていたと思う？
毎日毎日、きみの開かない瞼を見つめて、いっそこのままきみが眠りから醒めなければいいと、そんな風に思っていたんだ。
パイロットには戻れないきみを見ることが、僕にとっては苦痛だった。きみが苦しむ姿を、少しでも見たくはなかった。
今のこの姿だって、本当は受け入れたくない。けれど、これを受け入れることが僕にとっての贖罪なのだと自分に言い聞かせた。
ガンダムとの戦闘の中で仲間を失くし、恩師をも失った。ただひとり残った運命共同体だと思っていたきみは、こんな風に傷ついたまま眠りから醒めない。
このままでは、僕はひとりぼっちになってしまう。長い時間をかけて築いたきみとの友情が、なかったものにされてしまう。
（グラハム…もう一度だけ僕の名前を呼んで…）
ベッドで眠り続けるきみの手を握って、毎日呼びかけた。顔に、身体に、残る傷痕はもう一生消えないものだとも言われた。
（きみは、悲しむかな…）
僕は、悲しい。
きみは自分の容姿に対して自慢をするようなものではない、といつも言っていたけれど、僕はきみの顔が、姿が、好きだった。あんなにきれいな顔だったのに、こんな風になってしまって。僕はとても悲しい。
（でも、きみはきっとそんな事気にしないよね）
そう考えて、少しだけ笑ってしまった。
きみの中の価値観は、長い間友達をしてきた僕にも計り知れないものがある。
きみの手を握る僕の手が、震えている。その手が、少しだけ動いた。僕の手を確認するように、指先で、手のひらを押した。
「グラハム…？」
呼びかけて、顔を見る。
眩しいものを見た時のようにきみの表情が歪む。久し振りに見た光が眩しいのか、きみは一度瞼を持ち上げて、それからすぐに閉じた。
「……グハラム、」
もう一度、呼びかける。きみの手をぎゅっと握る。その手は力強く僕に応えてくれた。
「……ビリー、」
掠れた、おおよそきみらしくないか細い声が僕の名前を呼んだ。
きみの透き通った瞳が、僕を見ている。
（グラハム、グラハム、）
きみが、僕の名前を呼んでくれた。
ただそれだけの事が嬉しくて、僕の視界は大きく歪む。泣いているのだと気付いたのは、きみが伸ばした手が僕の頬を伝う涙を拭ったからだ。
「……泣いているのか」
囁くような小さな声で、きみが聞く。手のひらが、頬を包んでくれた。少し、冷たい掌が優しく僕に触れてくれた。
「グラハム……っ、」
それ以外は言葉にならない。
もうずっと、このままでもいい。
そう思ってた気持ちなんてあっと言う間に吹き飛んだ。いいわけがない。空を飛べなくても、傷がついても、君が生きて僕の目の前に居てくれることがどんなに大事なことか。
僕はそれを知っているはずなのに。
飛び立つきみの背中に、何度も何度も願ったのに。
（どうして、忘れていたんだろう）
自分が悪いと思っていた。そんな罪の意識から、きみの存在まで消し去ろうとしていた。だけど、そうじゃないんだ。
きみが、ここにいて、この目を見て、その口で名前を呼んでくれる。その事が一番大事なんだ。
誰が悪いなんて、僕が決めることじゃない。
泣いている僕を見て、きみはちいさく呆れたような頬笑みを浮かべた。その表情すら、顔に広がる傷の所為でどこかひきつって見えたけれど。きみは泣いている僕の前で、その事には触れなかった。
（……ごめんね、グラハム…）
僕は、きみの寛容さに、きみの優しさに、甘えてばかりだ。





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ビリーはとても優しいけど、グラハムもビリーには優しくしてあげていたんですよ、と言うのが妄想の中核にあります（笑）ただわがままを言うだけの人ではないのだ！と思いたいだけ…。
空白の四年間妄想はこれからも続きます……。