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せめてブログの日付だけでも4月1日にしておきます(笑)
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その日は朝からみんなの様子がおかしかった。
出勤をすると、みんなにこにこして「おはようございます」と声をかけてくる。何がおかしいって、まるで何かいい事でもあったみたいに一様に顔が笑っていることだ。朝の挨拶なんて適当に口だけのあいさつになることが多いのに、今日はみんながみんな、にこにこして、一度足を止めて「おはようございます」と言ってくる。
(なんか、あったのかな…)
微妙な空気を感じながら自分のデスクのある部屋に行くと、そこにダリルとハワードが居た。ふたりとも、こちらを見てにこりと笑って「どうしてここにいるんだい?」と聞こうとした僕の言葉を遮って、口を開いた。
「おめでとうございます」
にこにこ笑いながら、挨拶をしてくれた。
あれ?
「……おはよう」
何があったのかは知らないけれど、朝の挨拶は「おめでとう」ではない「おはよう」だったはずだ。怪訝な顔をする僕に、二人は顔を見合せて頷いた。
「隊長があちらで、待っています」
「どうぞ、」
手を伸ばして、僕の手を掴む。持っていた白衣を奪い取られて、廊下に出た。
「……なに?」
聞いても、ふたりとも答えてくれない。それどころか、二人に挟まれるように連行されている僕を、すれ違う人たちはやっぱりにこにこして見送って、助けてくれようともしない。
これのどこが、微笑ましい光景なんだ、と聞きたい。
「こちらへ」
と、二人に案内されたのは、隊長、グラハム・エーカーの部屋だった。グラハムはドアの前でにこにこして僕を待っていた。
なんだ、何があったんだ。
グラハムは理由もなくそんな笑顔をつくる人ではない。それとも僕が知らない間にユニオン内部でなにかあったのか。
考えてみたけれど、何も思い当たる節はない。
グラハムは僕の顔を覗きこむようにして見るよ、にこりと笑って身体を引き寄せた。「私の気持ちを受取ってくれて、ありがとう。ビリー」
聞いたこともないような甘い声で、きみが囁く。長年付き合ってきた友達の、初めて聞く声に驚いて、その中身にも驚いて、グラハムの顔を見ると、グラハムは顔色一つ変えていない。ただ、僕を見て、笑っている。
「……受け取って、って。何を」
驚いた顔のままで聞いた僕の視界に、ちらりとダリルの顔が映った。
「何を、って」
「結婚なさるんでしょう。隊長と」
まるで漫才のようにダリルとハワードが続けていった。
「はあ!?」
思わず声を大きくして言うと、そばで聞いていたグラハムが耳が痛い、と言うように耳を押さえた。一瞬眉間にしわを寄せたけれど、その表情はすぐに微笑みに変わる。
正直、気持ち悪い笑顔だ。
「なんと!きみは昨日私のプロポーズを受取ってくれたじゃないか」
「なんだよそれ、知らないよ」
何を言い出すんだ、と僕はグラハムから距離をとれるように腕を振り払おうとした。けれどグラハムの力は強く、非力な僕には到底その腕を振り払うことはできない。
そうしている間にユニオンの軍施設にその時出勤していたみんなが次々集まってきて(大声で言い争いをしていたので目立っていたんだろう)、みんな口々に「おめでとう」と言い出した。
「…なんでこんなことに……」
昨日のプロポーズ、なんて僕は勿論知らない。昨日も普通に仕事をして、普通に帰った。残業をしていて定時ではなかったけれど、泊り込みをするほどではなかったので、21時ごろには無事に帰宅していたはずだ。その間グラハムとは顔を合わせていない。
なのに、どうしてこんな事になっているんだ。
驚いた顔をしたままの僕を見て、グラハムはにこにこした顔を少し変化させた。小さくため息を吐いて「きみは、強情だな」と言ってから、顔を近付けた。
「何を、」
そう言った瞬間に、グラハムにくちづけをされた。
それも、唇に。
グラハムの顔が離れたほんの一瞬あと、その場の空気が固まっているのに気付く。僕は正直その時頭が混乱していて、周囲の様子にはまるで気付かなかった。
「え?どうして?」
と口に出した瞬間に、周囲の人間が口元を押さえてくすくす笑っているのが耳に入った。
「何のつもりだ、グラハム、」
くすくす笑っていた声がさざ波のように広がって、そのあと大爆笑の波になって身に降りかかってきた。僕の腰を支えたまま離さなかったグラハムも、僕の顔を見て笑っている。
「…何だよ、」
笑っているのに話してくれないグラハムの胸元に手をあてると、後で小さく「でも、お似合いなのに」と言う声が聞こえた。
「何なんだよ、これは」
何かが僕の知らないところで怒っている。それだけが分かったので、後で笑っているダリルとハワードを見ると、ふたりともお腹まで押さえて爆笑しながら「隊長!やりすぎです」と言っていた。
なんなんだよ、もう。
自分の預かり知らないところで起っている何かに対して、だんだん腹立たしくなってきて、グラハムの胸を叩いた。
するとグラハムはやっと笑うのをやめて、僕の顔をまっすぐに見た。
「すまない、うそだ」
「はあ?」
「嘘だ。今日はエイプリルフールだろう?」
さらりと言ったグラハムの言葉が、右の耳から左の耳に抜けていった。
なんだって?嘘?冗談?
「……きみは冗談であんな事するのか…!」
「仕方ないだろう?こんな日にフレックスで出勤してくるきみが悪い」
どうやらユニオンの趣味悪い連中が、みんなして嘘をつくターゲットを探している時に、たまたま僕の出勤が遅くてその悪巧みの標的にされてしまったらしい。
グラハムが真実を告げたので、そこに集まっていた人たちは次々に何も言わずに散会していった。
せめて謝るとか、して行ってくれても良かったのに!
まだ少し怒っている僕に、グラハムが笑顔を見せる。
「エイプリルフールに嘘をつくと寿命が延びるんだろう?」
「厄除けじゃありませんでしたか」
「一年の健康のためにんするんじゃなかったんですかね」
グラハムのバカなせりふに、ダリルとハワードのあほな追随がかかって、僕はもう怒るのを通り越してあきれるしかなかった。
それにしても、みんなで一人の人間をだますなんて趣味が悪すぎる。
(しかも、キスまでするなんて…)
さっきグラハムの唇が触れた口元を手で押さえてもう一度グラハムを睨みつけた。グラハムは謝罪の言葉一つ口にしないで、僕を見て微笑んでいる。
(……悔しい)
そんな顔をされたら、許してしまうじゃないか。ばかな嘘も、キスの事も。
それからしばらくは、その時の事でさんざんにからかわれたし、その嘘が噂になって流れてしまって、僕はしばらくグラハムと結婚したことになっていた。
ばかばかしい話だ。
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まあ、そんなバカバカしい話を書きたかっただけです。
ユニオンだからね。アメリカンジョークってことで。…ビリーは多分許してくれないだろうけど…。