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知ってる!って声が聞こえる…!(笑)



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アロウズに所属して少ししてから、久し振りにグラハムに会った。彼は仮面をつけて他人を拒絶しているように見えたけれど、多分過去の自分と決別したかったのだろう。おじさんの家で過ごした時に、そんな話をしてくれた事もあった。仮面だって、以前できあがりのものを見せてもらったから、笑いだしたりはしなかったけれど、やっぱり僕はきみの素顔が一番好きだ。たとえ、どんなに傷ついていても。
「それで、その仮面で僕を拒絶してるの?」
ふたりきりになっても仮面を外さない彼に、僕は意地悪を言った。彼は少し躊躇してから、自分の手を仮面にかけて、それを外してくれた。
「きみに醜い姿を見られたくはない」
そう、静かに呟いた。
確かにグラハムの顔には傷がついている。再生治療でも治らなかった傷。身体にも残っている傷痕。だけど僕はきみがなんと言おうとその傷も含めた君の全てが、今でも綺麗だと思う。醜いなんて、思ったことは一度もない。
渋々、と言った様子で仮面を外して机に乗せたので、僕は彼の前にコーヒーの入ったマグカップを差し出した。
「元気にしているようで、良かった…」
身体の調子が元に戻るわけがないのは分かっている。だからこそ、きみがこうして前線で戦っているのを見ると胸が痛くなったし、僕を勇気づけた。
「きみこそ、どうしているのかと思っていた」
グラハムが少し視線を落としながらつぶやいた。
彼は僕が誰かと暮らしている事を知っていたし、その頃の生活が相当荒れていた事も知っている。時々電話をすると、必ず「元気がない」と言われ、とても心配された。けれど彼は一度も自分から僕の所在を確かめようとはしなかった。彼なりの心遣いなのか、それとも僕の事なんてまるで気にしていないのか。
どちらともわからない彼の態度に、僕は内心傷ついたりもしていた。自分からは何も言わないのに、勝手に彼の気持ちを勘繰って勝手に傷つくなんて、なんてわがままなんだろう、と時々反省したけれど、だけど僕はあの頃とてもきみに会いたかったんだ。
(そんな事、言えなかったけどね…)
自分から軍への召集を拒否して、アルコール中毒の女性との同居(そうだ、あれは同棲ではなく同居、だ)を決めて、誰にも住所を明かさなかった。言ってしまえば、きっと彼女を病院に預けろと言われただろう。あの頃の僕に、そんな正論を受け入れることのできる余裕は全くなかったので、そう言われることが怖くて誰にも所在を明かさなかったのだ。
(それに僕は、きみに嘘がつけない…)
きみの眼にまっすぐに射抜かれると、嘘をつこうとして選んだ言葉が詰まってしまう。そうして、結局本当の事を言うしかなくなってしまう。
結局、僕にとって正しいのはきみを置いて他になくなってしまったのかもしれない。
尊敬する教授を失って、ユニオンで一緒に働いてきた気心の知れた仲間も今はもういなくなってしまった。そんな僕の事をわかってくれるのは、もうきみだけだ。きみがいなくなったら、僕はきっとどこに行けばいいのかわからなくなって、迷子になってしまうだろう。
「グラハム…」
昔のように、僕の前でコーヒーを飲むきみを見て、胸が痛んだ。
(きみがいなくなってしまったら、僕は迷子になってしまう…)
そう思うと、きりきりと心臓のあたりが痛くなる。
僕は今、変な顔をしていないだろうか。弱った顔をしていないだろうか。きみに、甘えようとしていないだろうか。
名前を呼んだものの、続きが出てこなかった。これ以上何かを口にすると、泣きそうだったからだ。
きみがそばに居て、僕の前でコーヒーを飲んでいる。
そんな、昔から当たり前だった出来事に対して感傷的になっている。僕は本当に、弱くなってしまった。
「カタギリ、大丈夫だ」
ああ、やっぱり僕の変な顔はグラハムにはばれている。マグカップを持っている手とは逆の手で、僕の手の甲にそっと手をあててくれた。手袋をはずしたその手の甲にも傷跡は残っていたけれど、だけどグラハムの手は以前のように綺麗だった。
「……グラハムは、いなくならないでね」
「分かってる。…分かっているとも」
一言つぶやいた僕の甘えを、わがままを、きみは何度もうなずいて受け入れてくれた。
もう、何かを失うなんて沢山だ。










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明日はオートマトンの制御に失敗し、スメラギさんに怒られながら逃げ惑うビリーの話を書きたいと思います(笑)
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