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昨日ちゃんと書けなかったから…
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一緒に暮らし始めた時、コーヒーの入れ方すら知らなかった僕にきみは分かっていながら多少は呆れているみたいだった。
だって仕事に行けばコーヒーはディスペンサーから勝手にブレンドされて出てくる。粉にお湯を注げばそれだけで飲み物になる。それをきみはいちいちドリップ式のコーヒーメーカーなんか使うから、使い方がわからなくて混乱するはめになるんじゃないか。
コーヒーひとつ入れる事の出来ない僕にきみは呆れてから、それじゃあ私がするよ、と言ってくれた。以来、僕はキッチンに一度も立った事がない。
コーヒーの事もそうだったけれど、僕には料理をする才能なんてまるでない。きみが作ってくれる食事の原型なんてまるで知らない。買い物に付き合う事はあったけれど、スーパーに並んでいる食材の、どこをどんなふうにすればあんなに美味しいものになるのかなんて、想像をしたこともない。
今までがそうだったので、これからもそのままで生きていける、と僕は勝手に思っていた事を今さらながらに後悔している。きみが少し遅くまで仕事をして帰ってきたあくる朝。なかなか起きてこないきみを、食事のためにだけ起こすのが憚られて、僕は一人でベッドを抜け出してキッチンに立った。
整頓されたキッチンには、どこに何があるか大体の予想はできる。
(卵を焼くくらいなら…)
なんとかなる。そう、僕は予想を立てた。フライパンに卵を割り入れて、焼くだけだ。目玉焼きは両面焼きが好きだったけれど、多分僕にとっての難易度はAクラスだろうから、止めておく事にする。とりあえずフライパンを出して、コンロに置く。お湯を沸かす事くらいだったらできるから、コンロの使い方は知っている。
さて、ここからが問題だ。
冷蔵庫から卵を取り出して、じっと眺める。多分、油をひいてその上に卵を落とすんだろう。どのタイミングで?どの油を?
湯気の上がってきたフライパンの前でじっと考えているうちにきみが置きだしてきて、キッチンの入り口でじっと僕の姿を見ていた。
「……おはよう、」
声もかけずにこちらを見ていたものだからしばらくきみの存在に気付かず、ふと顔をあげた瞬間にきみの姿を見て僕は少しだけ驚いた。ちゃんと起きているのか自信がなかったので、少し小さな声で挨拶をすると、きみはぼんやりしていた顔を一瞬で満面の笑みに変える。
「ビリー、きみも料理をしてみる気になったのか」
とても明るい声で言われて、僕はなんだか申し訳ない気持ちになった。そうか、きみも僕が自分で料理をした方が良い、って思っていたんだよね。ほうって置けばいつまでも食事をしない、注意をすれば冷凍食品を電子レンジに突っ込む。そんな生活をしている僕を心配していたんだよね。
「…グラハム、ここからどうすればいいのか教えてくれる?」
さっきまでじっと見ていた卵をきみに差し出すようにして見せると、きみは小さく声を殺して笑った。キッチンに立っている僕が卵をきみに差し出すその姿。それが面白かったんだろう。少しだけど、それは傷つくよ。
けれどきみはすぐに笑いを抑え込んで、僕の隣に立った。フライパンに油をひいて、卵を割り入れる。じゅわ、とフライパンから音がしていつも朝食で見ている目玉焼きの原型がそこに広がった。きみは冷蔵庫からもうひとつ卵をだして、その隣にもうひとつ目玉焼きを作った。
「目玉焼きだけでいいのかな?」
フライパンをじっと見ている僕の顔を見上げて、きみが少し意地悪な口調で聞いてくる。
「……トーストと、コーヒーも欲しいな」
いつもの朝食のメニューを口に出すと、きみは笑顔になってトーストをトースターに入れて、コーヒーをコーヒーメーカーにセットをした。僕がやるよりも数倍動きが速い。
「今度は僕が、作るね」
「そうしてくれると、嬉しい」
僕はきみのために何もしてあげる事ができないけれど、きっといつか来る未来では、少しくらいは何かできると思うんだ。そのために今から少しずつ、勉強をするよ。
朝食を作ってくれているきみの後姿を見て、心の中で誓いの言葉を述べた。きみに聞かれていたら、きっと「いつかなんて後ろ向きだな」とかなんとか言って、笑ったと思う。
>>>
なんにもできないドジっ子ビリーが大好きです。
もう何もしなくてもいいよ!そこにいてくれれば!ってグラハムは早くビリーに言ってあげればいい。
そんなビリーがおっさんであることにもえがあります(笑)
おっさん…。
だって仕事に行けばコーヒーはディスペンサーから勝手にブレンドされて出てくる。粉にお湯を注げばそれだけで飲み物になる。それをきみはいちいちドリップ式のコーヒーメーカーなんか使うから、使い方がわからなくて混乱するはめになるんじゃないか。
コーヒーひとつ入れる事の出来ない僕にきみは呆れてから、それじゃあ私がするよ、と言ってくれた。以来、僕はキッチンに一度も立った事がない。
コーヒーの事もそうだったけれど、僕には料理をする才能なんてまるでない。きみが作ってくれる食事の原型なんてまるで知らない。買い物に付き合う事はあったけれど、スーパーに並んでいる食材の、どこをどんなふうにすればあんなに美味しいものになるのかなんて、想像をしたこともない。
今までがそうだったので、これからもそのままで生きていける、と僕は勝手に思っていた事を今さらながらに後悔している。きみが少し遅くまで仕事をして帰ってきたあくる朝。なかなか起きてこないきみを、食事のためにだけ起こすのが憚られて、僕は一人でベッドを抜け出してキッチンに立った。
整頓されたキッチンには、どこに何があるか大体の予想はできる。
(卵を焼くくらいなら…)
なんとかなる。そう、僕は予想を立てた。フライパンに卵を割り入れて、焼くだけだ。目玉焼きは両面焼きが好きだったけれど、多分僕にとっての難易度はAクラスだろうから、止めておく事にする。とりあえずフライパンを出して、コンロに置く。お湯を沸かす事くらいだったらできるから、コンロの使い方は知っている。
さて、ここからが問題だ。
冷蔵庫から卵を取り出して、じっと眺める。多分、油をひいてその上に卵を落とすんだろう。どのタイミングで?どの油を?
湯気の上がってきたフライパンの前でじっと考えているうちにきみが置きだしてきて、キッチンの入り口でじっと僕の姿を見ていた。
「……おはよう、」
声もかけずにこちらを見ていたものだからしばらくきみの存在に気付かず、ふと顔をあげた瞬間にきみの姿を見て僕は少しだけ驚いた。ちゃんと起きているのか自信がなかったので、少し小さな声で挨拶をすると、きみはぼんやりしていた顔を一瞬で満面の笑みに変える。
「ビリー、きみも料理をしてみる気になったのか」
とても明るい声で言われて、僕はなんだか申し訳ない気持ちになった。そうか、きみも僕が自分で料理をした方が良い、って思っていたんだよね。ほうって置けばいつまでも食事をしない、注意をすれば冷凍食品を電子レンジに突っ込む。そんな生活をしている僕を心配していたんだよね。
「…グラハム、ここからどうすればいいのか教えてくれる?」
さっきまでじっと見ていた卵をきみに差し出すようにして見せると、きみは小さく声を殺して笑った。キッチンに立っている僕が卵をきみに差し出すその姿。それが面白かったんだろう。少しだけど、それは傷つくよ。
けれどきみはすぐに笑いを抑え込んで、僕の隣に立った。フライパンに油をひいて、卵を割り入れる。じゅわ、とフライパンから音がしていつも朝食で見ている目玉焼きの原型がそこに広がった。きみは冷蔵庫からもうひとつ卵をだして、その隣にもうひとつ目玉焼きを作った。
「目玉焼きだけでいいのかな?」
フライパンをじっと見ている僕の顔を見上げて、きみが少し意地悪な口調で聞いてくる。
「……トーストと、コーヒーも欲しいな」
いつもの朝食のメニューを口に出すと、きみは笑顔になってトーストをトースターに入れて、コーヒーをコーヒーメーカーにセットをした。僕がやるよりも数倍動きが速い。
「今度は僕が、作るね」
「そうしてくれると、嬉しい」
僕はきみのために何もしてあげる事ができないけれど、きっといつか来る未来では、少しくらいは何かできると思うんだ。そのために今から少しずつ、勉強をするよ。
朝食を作ってくれているきみの後姿を見て、心の中で誓いの言葉を述べた。きみに聞かれていたら、きっと「いつかなんて後ろ向きだな」とかなんとか言って、笑ったと思う。
>>>
なんにもできないドジっ子ビリーが大好きです。
もう何もしなくてもいいよ!そこにいてくれれば!ってグラハムは早くビリーに言ってあげればいい。
そんなビリーがおっさんであることにもえがあります(笑)
おっさん…。
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